はじめに:稲沢市で店を構えるあなたへ
私は愛知県春日井市で6年間カーリース店を経営し、現在は稲沢市をはじめとする一宮からおよそ20km圏の29市町村の店舗を回り、AI導入の伴走支援を行っています。日々、地域で汗を流す経営者の皆様と顔を合わせる中で、特に飲食店の方々から「AIなんてうちの店に関係あるのか」「何から手をつければいいのかわからない」という声をよく耳にします。
総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)によると、稲沢市の事業所数は4,133あります。この中には、地域の人々に愛される魅力的な飲食店が数多く含まれています。日々、仕込みや接客、売上管理に追われる中で、新しい技術について考える時間を作るのは容易ではありません。
しかし、人手不足や原材料の高騰など、店舗を取り巻く環境は厳しさを増しています。その中で、私たちはどのようにAIという新しい存在と向き合うべきなのでしょうか。
数字から見る、地域の店舗が抱える本音
世間ではAIの話題が溢れていますが、足元の中小企業の現実は少し異なります。
中小企業基盤整備機構が公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月・有効回答1,668社)によると、中小企業のAI導入率は20.4%(全社的3.6%+一部業務16.8%)に留まっています。一方で、「導入予定はない」と回答した企業は61.0%に達しているのが現状です。
なぜ、これほどまでに導入が進まないのでしょうか。同調査で導入に踏み切れない理由を尋ねたところ、「現状で満足しており必要性を感じない」と答えた割合は、導入予定なし層で27.7%、検討中層で4.0%でした。日々の営業がなんとか回っているからこそ、あえて新しいものを取り入れる必要性を感じにくいという側面があります。
さらに、総務省「令和7年版 情報通信白書」図表I-1-2-15(日本 n=515)によると、「効果的な活用方法がわからない」と答えた割合は、米国が9.7%であるのに対し、日本は30.1%に上ります。つまり、多くの経営者が「何か役に立つかもしれないが、自分の店でどう使えばいいのか見当がつかない」という霧の中にいるのです。
飲食店におけるAI導入の「正しい順番」とは
飲食店におけるAI導入の「正しい順番」とは、便利なITツールやAIアプリを調べる前に、自店のスタッフが毎日行っている「仕込み」「接客」「片付け」「事務作業」といった具体的な作業工程をすべて書き出し、どこに一番時間がかかっているかを特定することです。
多くの人が「どのAIツールを使えばいいか」という道具選びから始めてしまいます。しかし、これは料理に例えるなら、どんなメニューを作るかも決まっていないのに、最新の調理器具を買い揃えるようなものです。
初回の店舗訪問では、道具の話をする前に、実際の業務フローを見せてもらう。そのうえで、何をAIに任せられるかを一緒に選ぶ。順番を逆にすると、入れたのに使われないまま止まる。
(公式HP「来店伴走の流れ」より)
道具を導入することが目的になってしまうと、現場は混乱し、結局は以前のやり方に戻ってしまいます。まずは、自分たちの足元を見つめ直すことが、何よりも先決です。
技術を活かすのは、あなたの「現場力」
AIという言葉を聞くと、まるで魔法のようにすべての仕事を代わりにやってくれるように思えるかもしれません。しかし、現実はそうではありません。
AIは能力の増幅器です。使う人の業種知識・経験・判断がないと、最大限には使えません。能力ゼロに掛けても、ゼロのままです。
(代表 佐藤の考え)
飲食店の経営において、長年培ってきた「お客様の好みを察する力」や「季節に合わせたメニューの微調整」、「スタッフとの信頼関係」は、AIには決して真似できない貴重な財産です。AIは、あなたが作成した「今週の仕入れリスト」の計算を助けたり、SNSに投稿する「新メニューの紹介文」の下書きを作ったり、毎月の「シフト表の素案」を組み立てたりする、優秀なアシスタントに過ぎません。主役はどこまでも、現場の経験を持つあなた自身です。
今日、店舗の机の上でできる最初の1歩
では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。高度なパソコンの操作や、新しいアプリのダウンロードは今日、一切必要ありません。
今日できる唯一のことは、**「1日の作業フローをノートに書き出すこと」**です。
営業が終わった後、あるいは仕込みの合間の静かな時間に、1枚の紙とペンを用意してください。そして、あなたが今日行った作業を思いつく限り書き出してみます。
- 朝、市場や業者から届いた食材の検品と冷凍庫への収納
- ランチタイムに向けた野菜のカットやスープの仕込み
- 営業時間中の調理、接客、レジ対応
- アイドルタイムに行う、インスタグラムへの写真投稿と文章作成
- 閉店後の清掃、食器洗浄、そして売上の集計と日報の記入
- 来週のシフト調整と、不足している食材の追加発注
このように書き出してみると、「実は、SNSの文章を考えるのに毎日30分も悩んでいる」「シフトの調整でスタッフとの連絡往復に毎週2時間使っている」といった、特定の作業に時間が奪われている事実に気づくはずです。
その「時間がかかっている作業」こそが、将来的にAIに手伝ってもらうべき候補になります。道具を探すのは、このリストが完成してからで十分に間に合います。
まずは、ご自身の1日を振り返り、書き出すことから始めてみてください。その一歩が、これからの店舗運営を少しだけ軽やかにする、確かな土台となるはずです。
出典
本文中の数字は、次の公的統計にもとづいています。
- 総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)
www.stat.go.jp で見る - 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月(有効回答1,668社)
www.smrj.go.jp の報告書(PDF) - 総務省「令和7年版 情報通信白書」図表I-1-2-15(日本 n=515)
www.soumu.go.jp で見る