愛知県北部に位置する岩倉市。五条川の桜並木が美しく、春には多くの人々で賑わうこの街には、地域に根ざした温かい商売が息づいています。総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)によると、岩倉市には1,304の事業所が存在します。その中で、日々の暮らしに彩りを添え、お祝いやお悔やみの場に寄り添う花屋の存在は、地域の文化を支える大切な役割を担っています。
しかし、個人経営や少人数で営む花屋の経営者にとって、日々の業務は多忙を極めます。仕入れのために早朝から市場へ向かい、店に戻れば冷たい水で水揚げをし、接客の合間に花束やアレンジメントを制作し、配達に走り、さらにはSNSでの発信や経理作業までこなさなければなりません。こうした慌ただしい毎日の中で、「AI」という言葉を耳にしても、自分たちの仕事には関係のない遠い世界の出来事のように感じられるのは、ごく自然なことです。
実際に、中小企業基盤整備機構が公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月・有効回答1,668社)によると、中小企業のAI導入率は20.4%(全社的3.6%+一部業務16.8%)にとどまっており、さらに「導入予定はない」と答えた企業は61.0%にのぼります。
この「導入予定はない」と答えた層が、AIに対してどのような意識を持っているのか。同調査によると、AIの導入に踏み切れない理由として「現状で満足しており必要性を感じない」と回答した割合は、導入予定なし層で27.7%、導入を検討している検討中層で4.0%となっています。日々の仕入れや接客、技術の磨き込みといった目の前の仕事で十分に手一杯であり、今のやり方で店が回っている以上、わざわざ新しい技術を取り入れる必要性を感じないという本音が見えてきます。
また、必要性をなんとなく感じつつも、どう動けばいいのかわからないという経営者も少なくありません。総務省「令和7年版 情報通信白書」図表I-1-2-15(日本 n=515)の調査によると、「効果的な活用方法がわからない」と回答した割合は、日本が30.1%であるのに対し、米国は9.7%という結果が出ています。このデータの差は、日本の中小企業経営者が「AIをどう自分たちの商売に結びつければいいのか」という具体的なイメージを持てずに悩んでいる現状を浮き彫りにしています。
多くの情報誌やインターネットの記事では、「ChatGPTを使ってブログ記事を自動生成しよう」とか「画像生成AIでチラシを作ろう」といった、道具の紹介ばかりが先行しています。しかし、本当に大切なのは道具の機能を知ることではありません。商売においてAIを役立てるためには、道具を触る前に行うべき「順番」が存在します。
春日井で6年、カーリースをやってきた。ある時期、自分の店で集客が止まった。広告費を倍、3倍、5倍にしても、お客様は増えなかった。「やり方が悪いのか、商品が悪いのか」を一人で考え続けた。
(公式HP「はじめに」より)
やりたいのは、実力がそのまま届く世界に変えることです。AIで、個人店に「大手と同じ届ける力」を持たせる。それが会社の旗です。
(代表 佐藤の考え)
大手の花屋チェーンやネット通販のプラットフォームは、莫大な広告費を投じて自社の存在をアピールします。一方で、地域の個人店には、長年培ってきた技術や、お客様一人ひとりの好みを把握したきめ細やかな対応、仕入れへのこだわりといった、大手には真似できない確かな「実力」があります。その実力を、必要としている地域の人々に届けるための手段として、AIは強力な味方になります。
では、岩倉市の花屋が、今日からできる最初の1歩とは何でしょうか。それは、新しいアプリをスマートフォンにダウンロードすることでも、パソコンを開いて難しい設定をすることでもありません。
AIの導入における「順番」とは
AIの導入における「順番」とは、ツールを操作する前に、経営者自身が頭の中で考えている「自店のこだわり」や「接客時の言葉」を、そのまま紙やスマートフォンのメモ帳に書き出す作業のことです。
AIは、何もないゼロの状態から魔法のように素晴らしい文章やアイデアを生み出すことはできません。AIに命を吹き込むのは、あなたの店が大切にしている「生きた言葉」です。そのため、道具の選定や操作方法を学ぶ前に、まず自店の「素材」を言語化しておくという順番が、極めて重要になります。
岩倉市で花屋を営むあなたが、今日できる具体的な行動は1つだけです。
「仕入れのときに、どんな基準で花を選んでいるか」 「花を長持ちさせるために、店でどのような水揚げの工夫をしているか」 「お客様から『おまかせで』と頼まれたとき、どんなことを意識して花を組み合わせているか」
これらのうち、どれか1つだけで構いません。普段、店頭でお客様に何気なく説明している言葉や、頭の中で無意識に行っているプロとしてのこだわりを、3行程度の短い文章でメモに書き出してみてください。
例えば、このようなメモです。 「うちの店では、ただ綺麗なだけでなく、つぼみの状態が硬すぎず、かつ長く咲き続ける絶妙な開き具合の花を選んで仕入れている。家に持ち帰った後に、ゆっくりと開いていく過程を楽しんでほしいからだ」
この、たった3行のメモこそが、将来的にAIを使ってSNSの発信文章を作ったり、季節のイベント用のPOPを作成したりする際、大手の均一化された文章とは異なる「あなたの店だけの温かみのある言葉」を出力するための、最も重要なデータになります。
道具の使い方を覚えるのは、このメモが手元に用意できてからで遅くありません。まずは今日、店が終わった後の数分間、あるいは接客の合間の静かな時間に、あなたの「こだわり」を1つだけ言葉にしてみることから始めてみませんか。
出典
本文中の数字は、次の公的統計にもとづいています。
- 総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)
www.stat.go.jp で見る - 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月(有効回答1,668社)
www.smrj.go.jp の報告書(PDF) - 総務省「令和7年版 情報通信白書」図表I-1-2-15(日本 n=515)
www.soumu.go.jp で見る